大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所 平成10年(ネ)509号 判決

控訴人

甲野一郎

右訴訟代理人弁護士

馬淵顕

被控訴人

甲野二郎

乙川春子

右両名訴訟代理人弁護士

渡部邦昭

右復代理人弁護士

松田訓明

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人は、被控訴人らに対し、別紙物件目録記載の土地のうち、別紙図面のあ、い、う、え、お、か、y、き、く、け、あの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地、イ、ロ、ハ、ニ、イの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地及びA、B、C、D、Aの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地を除くその余の土地につき、広島法務局昭和五二年一一月一四日受付第四三六五六号所有権移転登記を、昭和四九年二月一八日相続を原因として、控訴人の持分を三分の二、被控訴人甲野二郎の持分を六分の一、同乙川春子の持分を六分の一とする所有権移転登記に更正登記手続をせよ。

2  被控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は第一、二審を通じこれを三分し、その二を控訴人の、その余を被控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一  控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人らの請求を棄却する。

第二  事案の概要

次のとおり訂正、付加、削除するほかは、原判決の「第二 事案の概要」欄に記載するとおりであるから、これを引用する。

一  原判決一枚目裏八行目〈編注本号二三二頁四段三七〜二三三頁一段一行目〉の「別紙物件目録記載の土地」を「本判決別紙物件目録記載の土地」と改め、同九行目〈同二三三頁一段三行目〉の「所有権移転登記について、」の次に「共同相続したことを理由として」を、同一〇行目〈同二三三頁一段三行目〉の「法定相続分」の前に「各」をそれぞれ加える。

二  同二枚目表一行目〈編注 本号二三三頁一段一〇〜一一行目〉の「墓地である(甲一の1、2)」を「墓地であり、平成一〇年四月一五日、土地区画整理法による換地処分により増歩されたものである(争いがない)」と改め、同六行目〈同二三三頁一段一九行目〉の次に改行して「3 本件相続人らは、昭和五〇年一〇月九日、被相続人四夫の遺産分割に関する協議を行い(以下「本件分割協議」という。)、遺産分割協議書を作成したが、その際、本件土地は、本件分割協議の対象とはならなかった(争いがない)。」を加え、同七行目〈同二三三頁一段二〇行目〉の項目「3」を「4」と改め、同一〇行目〈同二三三頁一段二四行目〉の「という。)」の次に「(争いがない)」を、同行の次に改行して、次のとおりそれぞれ加える。

「二 争点

1  本件土地は、祭祀財産か。

2  祭祀承継者は定まっていたか。

三  争点に関する当事者の主張」

三  同二枚目表一一行目〈編注 本号二三三頁一段二五行目〉の全部を「1被控訴人らの主張」と改め、同一二行目の冒頭〈同二三三頁一段二六行目〉から同裏一行目〈同二三三頁一段三〇行目〉の「その際、」までを削り、同行の「本件土地は」から同行の「その後、」までを「(一) 本件土地は、本件分割協議の対象とはならなかったので、本件土地は本件相続人らの共有状態にある。同土地については、甲野家の墓地として本件相続人ら全員で世話をしていくという合意が成立したにもかかわらず、その後、祭祀承継者でもない」と、同四行目〈同二三三頁一段三五〜三六行目〉の「保存行為に基づき」を「民法二五二条ただし書に基づく保存行為として」とそれぞれ改め、同五行目〈同二三三頁一段三七行目〉の次に改行して「(二) 本件土地のうち、別紙図面のあ、い、う、え、お、か、y、き、く、け、あの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地(以下「墓所乙」という。)、イ、ロ、ハ、ニ、イの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地(以下「墓所甲」という。)及びA、B、C、D、Aの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地(以下、「墓所丙」という。)は、祭祀財産であるが、その余の土地は祭祀財産ではなく、被相続人四夫の相続財産である。」を加え、同六行目〈同二三三頁二段一行目〉の全部を「2 控訴人の主張」と、同七行目〈同二三三頁二段二行目〉の項目「1」を「(一)」とそれぞれ改める。

四  同二枚目裏一二行目の冒頭〈同二三三頁二段一〇行目〉から同三枚目裏三行目の末尾〈同二三三頁三段二八行目〉までを次のとおり改める。

「  (二) 本件土地は祭祀財産であり、控訴人は祭祀承継者であることについて

本件土地が本件分割協議の対象とはならなかったのは、本件土地には甲野家の墳墓があり祭祀財産で、被相続人四夫の相続財産とされなかったためである(本件土地は、本件分割協議後の事情変更として、増換地されて面積が広くなったが、これにより本件土地の性格が変わるものではない。)

そして、本件登記がなされたのは、本件分割協議の際、本件相続人らの間において、事実上の長男である控訴人が四夫の祭祀承継者となるとされていたからであり、右協議において、控訴人が四夫の祭祀承継者となる旨の合意がなされた。仮に右合意が認められないとしても、慣習により、事実上の長男である控訴人が四夫の祭祀承継者となり、祭祀を行ってきた。仮に右慣習が認められないとしても、控訴人は、広島家庭裁判所における平成一二年三月一五日審判で、甲野家の祭祀承継人に指定され、同審判は同年四月一日確定したから、控訴人は祭祀承継者である。

したがって、本件土地について、控訴人名義でなされた本件登記は有効である。

(三) 仮に、本件土地全部が祭祀財産に属しないとしても、別紙図面の墓所甲、墓所乙及び墓所丙のほか、か、y、き、イ、ロ、ハ、x、かの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地も祭祀財産である。」

五  同三枚目裏四行目の冒頭〈編注本号二三三頁三段二九行目〉から同六行目の末尾〈同二三三頁三段三三行目〉までを削る。

第三  当裁判所の判断

一  本件土地は祭祀財産かについて(争点1)

本件土地は墓地であり、土地区画整理法による換地処分により増歩したことは当事者間に争いがない。民法八九七条一項は、「系譜、祭具及び墳墓の所有権は、……祖先の祭祀を主宰すべき者がこれを承継する。」と規定しているところ、墓地が墳墓として祭祀財産となるか否かが問題となる。墳墓は、遺骸や遺骨を葬っている設備である、いわゆる墓石等をいい、墓地は、その墳墓を所有するための敷地であるので、墳墓と墓地とは、一応、別の客体ということができる。しかしながら、墳墓が墳墓として遺骨などを葬る本来の機能を発揮することができるのは、墳墓の敷地である墓地が存在することによるのであって、墳墓がその敷地である墓地から独立して墳墓のみで、その本来の機能を果たすことができないことを考慮すると、社会通念上一体の物ととらえてよい程度に密接不可分の関係にある範囲の墳墓の敷地である墓地は、墳墓に含まれると解するのが相当である。したがって、墳墓と社会通念上一体の物ととらえてよい程度に密接不可分の関係にある範囲の墳墓の敷地である墓地は、民法八九七条に規定する墳墓として祭祀財産と解される。

そこで、本件土地につき祭祀財産と認められる範囲を検討すると、前説示のとおり、墳墓に含まれる墓地の範囲は、墳墓と社会通念上一体の物とみてよい程度に密接不可分の関係にある範囲に限られるから、墓地のうち墓石等の墳墓が存在せず、祖先の祭祀と直接の関係が認められない墓地部分は、祭祀財産には属しないものというべきである。本件の基礎となるべき事実及び証拠(甲一の1、2、九、一一、一九ないし二三、乙二ないし四、鑑定の結果、検証の結果)及び弁論の全趣旨によれば、本件土地は、もと地籍六九平方メートルの墓地で、平成一〇年四月一五日、土地区画整理法による換地処分により地積一六一平方メートルに増歩された墓地であり、右一六一平方メートルの土地は、約九二平方メートルの土地部分とその余の土地部分とにより構成され、その約九二平方メートルの土地部分に甲野家の歴代の墓石及び甲野三郎家の墓石等が複数点在しており、その墓石は、別紙図面の墓所甲、墓所乙及び墓所丙内にそれぞれ設置されていることが認められる。右認定事実によれば、甲野家の墓石等の墳墓は、本件土地のうち別紙図面の墓所甲、墓所乙及び墓所丙内の土地部分に存し、その余の土地部分には墳墓が存しないことが認められるから、墳墓と社会通念上一体の物とみてよい程度に密接不可分の関係のあると認められる墓地の範囲は、右墓所甲、墓所乙及び墓所丙の範囲内の土地と認めるのが相当である。

したがって、本件土地のうち、右墓所甲、墓所乙及び墓所丙の範囲内の土地は祭祀財産と認めることができ、その余の土地は祭祀財産ではなく、被相続人四夫の相続財産として、本件相続人らの共同相続の対象となる財産と認められる。

ところで、控訴人は、別紙図面のか、y、き、イ、ロ、ハ、x、かの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地は、墳墓に至るための通路として祭祀財産である旨主張する。同部分の土地には墳墓に至るための通路と認められる部分(別紙図面のか、y、ロ、ハ、x、かの各点を順次直線で結んだ範囲)もあるが、通路部分は、祭祀と直接の関係を有せず、また、墳墓の維持管理自体に直接必要な土地とも認められないから、墳墓と社会通念上一体の物とみてよい程度に密接不可分の関係にある範囲の墓地とは認められず、控訴人の主張は採用できない。

二  祭祀承継者は定まっていたかについて(争点2)

1  合意に基づく祭祀承継者

控訴人は、本件分割協議の際、控訴人が四夫の祭祀承継者となる旨の合意がなされた旨主張する。

しかしながら、民法八九七条によれば、祭祀財産の承継者は、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継するか、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者がこれを承継するのであるから、四夫が、祭祀承継者は本件相続人らの協議によって定めることとするとの指定方法を採り、これに基づいて本件相続人らが協議して祭祀承継者を定めたというのであれば格別、仮に、本件相続人らが協議して祭祀承継者を定めたとしても、それは、家庭裁判所が同条二項に基づいて祭祀承継者を指定する際の重要な一資料になるとしても、右の指定がない限り、右協議して定めた者を祭祀承継者であると認めることはできない。しかるところ、本件全証拠を精査しても、四夫がその祭祀承継者を本件相続人らで協議して定めるものとするとの指定方法を採ったことを認めるに足る証拠はないから、控訴人の右主張は採用できない。

2  慣習に基づく祭祀承継者

控訴人は、慣習により控訴人が四夫の祭祀承継者となった旨主張する。

四夫の子には甲野夏子を除く本件相続人らのほか長男及び長女がいたものの、右長男は戦死し、右長女は病死したため、本件分割協議時において、控訴人は戸籍上二男であるが、男性のうちの長子であることが認められる(被控訴人甲野二夫)。しかしながら、長子承継の慣習が存すると認めるに足る証拠はなく、また、本件土地の墓の世話は、控訴人を除く本件相続人らが主として行っている旨の被控訴人甲野二夫の本人尋問の結果に照らし、控訴人の右主張を採用することはできない。

3  そうすると、本訴提起時においては、前記認定した祭祀財産である別紙図面の墓所甲、墓所乙及び墓所丙の各墓地部分についての祭祀承継者はいまだ定まっていなかった状態にあったものというべきところ、控訴人は、民法八九七条二項に基づき控訴人が畑宮家の祭祀承継人と家庭裁判所より指定された旨主張する。証拠(乙七、八)によれば、広島家庭裁判所は、申立人を被控訴人畑宮修三、相手方を本件相続人らとする同裁判所平成一一年(家)第一三一六号祭祀財産の承継者の指定申立事件で、平成一二年三月一五日、新次所有の墳墓の承継者を控訴人と定める旨の審判をし、同審判は同年四月一日確定したことが認められる。したがって、本件土地のうち、祭祀財産と前記認定した範囲の土地部分については、本件登記は、現在の法律関係を反映しているものということができるから、同登記は有効であるというべきであり、これの更正を求める被控訴人らの請求には理由がないものというべきである。

一方、本件土地のうち、前示のとおり祭祀財産と認められない範囲の土地部分については、これを、被相続人新次の相続財産として本件相続人らが共同相続したものであるところ、本件全証拠を精査しても、本件分割協議に際して、同土地部分につき遺産分割協議がなされたことを認めるに足りる証拠はないから、同土地部分は、本件相続人らが共同相続したままの状態にあるものというべきである。そうすると、同土地部分について、控訴人の単独名義で所有権移転登記がなされていることについては当事者間に争いがないから、同土地部分の右登記について被控訴人らの各法定相続分に従った更正登記手続を求める被控訴人らの請求は、理由があるものと認められる(以上によれば、本訴において、固有必要的共同訴訟かどうかについて判断する必要がないことに帰着する。)。

三  以上によれば、被控訴人らの本訴請求は、主文一1の限りで理由があるからこれを認容すべきであり、その余の請求については理由がないから棄却すべきである。

よって、これと異なる原判決を本判決主文のとおり変更することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六七条二項本文、六五条一項、六一条、六四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川波利明 裁判官 布村重成 裁判官 岩井伸晃)

別紙物件目録〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例